「90年代ニューウェーブのインディーシーン」 Ver.1.6

90年代はクラブ系のテクノばかりが注目されているけれど、ライブハウスでニューウェーブ、テクノな活動を続けるバンドもインディーズにはけっこう多い。

オリジナルのニューウェーブから20年近くたった今、改めて注目を集めているニューウェーブ系のバンドにはいったいどんなバンドがいるのだろうか?どんなシーンが存在するのだろうか?

90年代ニューウェーブのインディーズを語る上で避けられないシーンとしては新宿JAM、電染病ラボ、トロイの木馬などがある。

1998年9月25日に発売されたコンピレーションアルバム「東京ニューウェーブオブニューウェーブ'98」から、ここ最近のニューウェーブ・オブ・ニューウェーブやネオ・ネオ・ニューウェーブといった動きが始まったと言っても言い過ぎじゃないだろう。(アルバムタイトルは「東京ニューウェーブ'79」へのオマージュ)

このアルバムには新宿のライブハウス「JAM」で活動を始めたバンドが収められている。20歳そこそこという若さが衝撃的だった「ポリシックス」、シーンの牽引車的役割をはたしている松江潤ひきいる「スプージーズ」、リズムマシンやVJの導入など独自路線をゆく「モトコンポ」、後述する「スカイフィッシャー」、「オーディポップ」、「シカゴベース」(現シッカベース)の6バンド。

新宿JAMでは佐川店長の目にとまったニューウェーブなバンドが1997年頃からライブ活動を始め、「マジカル・ニューウェーヴ・ツアー」(1997年9月12日)には、すでにポリシックス、モトコンポ、ガ・ラスカラス(スカイフィッシャーの前身)、メカロポンチなどが出演している。「東京ニューウェーブオブニューウェーブ'98」発売記念ライブ(1998年9月13日)では、新宿JAMで350人近く動員し入場規制もおこなわれた。

1999年2月14日には場所を渋谷クラブクアトロに移し第二回目の「東京ニューウェーブオブニューウェーブ」のイベントが行われ、確実にシーンの裾野を広げていった。

ほかにJAMでおなじみのバンドは、学生服を着て演奏するバンド「山下学園」(山下哲史はヤング100Vにも参加)、軽妙なMCとアッパーな打ち込みのユニット「S.V.D」などがいる。新宿JAMの「SPOOZYS VS スペースカンフーマン」(1999年8月20日)でスプージーズと対バンした「スペースカンフーマン」は片岡智之らによって1995年11月結成されたオルタナなバンドで、ポリシックスとも交流がある。

「電染病ラボ」は、最近のニューウェーブ・オブ・ニューウェーブからさかのぼる5年ほど前からスカイフィッシャーの中山貴史が主宰しているライブイベントで、第一回は1994年7月3日、本八幡The3rdStateにて、ガ・ラスカラス、千葉レーダ、サイコキャンディー、ブンガブンガが出演して行われた。

以後年2回のペースで開催され、出演した主なバンドには、船橋ヘルスパワー、モデルプランツ、SUPER GET GET TWO、ハゲ&パスタ、くるくるメカ、くらげちゃんなど。1996年の4回目からは秋葉原グッドマンに場所を移して1999年には第10回目が開かれている。

代表的なバンドとしては、社会的な歌詞にプログレとも通じるようなライブが迫力の「スカイフィッシャー」、個性的なキャラクターを前面に押し出したカラオケスタイルの「千葉レーダ」、メンバーの中にデザイナーがいたりと独特のスタイリッシュさと企画力がある「デッドコピー」(途中からSUPER GET GET TWOのドラマーが参加)、黄色いレインコートやゴーグルの衣装でパワフルなロックを聴かせる「ハイワット・エレクトリック」(元ハゲ&パスタ)、奇抜な衣装や歌詞が印象的な「くらげちゃん」、自作楽器の導入などユニークな面を持つ「ヤング100V」(メンバーには元船橋ヘルスパワー、元ポリシックスなども)などがいる。平行して開かれているイベント「テクノポリス2001」の常連の「船橋ヘルスパワー」も見逃せない。

ガ・ラスカラスが千葉大学の「サウンドクリエイト研究会」(OBには松前公高なども)という音楽サークル出身のため電染病ラボには「千葉レーダ」などサウンドクリエイト研究会出身バンドがたくさん出演している。

コンピレーションアルバム「電染病ラボCD1」(1996年5月リリース)はここらへんがコンパクトに収まっていておすすめだ。ほかにS.V.D.プロデュースの千葉系インディーズコンピ「FLAGSHIP PARTY Vol.1」(1999年5月リリース)もおもしろい。

他に秋葉原グッドマンというとADSR RecordsのDOLF主宰のイベント「TECHNO PLANS」なども開かれていて、俗に秋葉系などと言われることもある。

「トロイの木馬」は1991年1月〜1993年9月まで放送された加藤賢崇パーソナリティーのラジオ番組で、そのデモテープのコーナーはとくに人気があり、オムニバスアルバム「トロイの木馬」(1993年)もリリースされた。

収録アーティストは、オーガニゼーション、B-2 DEP'T、パラペッツ(後にメテオール)、クリップスリップ、本多伸光(Metricslab)、中野テルヲ(P-MODEL、ロング・ヴァケーション)、松前公高(EXPO、スペースポンチ)、東京タワーズ(加藤賢崇のバンド)など。

当時加藤賢崇がテクノレーベル「トリガー」(後にトランソニック)とかかわっていたためトリガーのアーティストもたくさん収録されている。永田一直を中心とするオーガニゼーションやクリップスリップもトリガーの人気バンドだった。

B-2 DEP'Tは1996頃からYMOコピーバンド、「Yセツ王」としての活動を始め、積極的にライブ活動を行っている。

いままで書いた以外にもニューウェーブ的なバンドはたくさんいるし、東京以外にも独自に活動をつづける実力派バンドは数多い。

女性ボーカルをフィーチャーしてテクニックに裏打ちされたポップな楽曲が魅力の「山田冷蔵庫王」、クラブミュージック的なアプローチをとりつつも歌謡曲やテクノポップをベースにもつ女性3人組のユニット「ジェリーフィッシュ」、バンガローの日本コンピshushi4004にも収録されたりして海外でも評価が高いラウンジでキュートなバンド「キップソーン」、1986頃から活動していてモノグラム(Yセツ王のメンバーも在籍)との対バンも多いロックバンド「トロピカル大臣」、一人で演奏から歌までやってしまう宅録派ミュージシャン「HARCO」(元ブルーボーイ)、不思議な雰囲気の2人組「ホモンズ」、魅惑の和風テクノバンド「金色マウンテン」、楽しいテクノポップバンド「プリセットチーズ」 、一人テクノポップユニット「テクマ」などが注目すべき存在だ。

関西のニューウェーブといえば、ジャケットにgroovisionsを起用したりといったキャッチーな面と楽曲のモンドな面が同居しているバンド「Our Hour」、名古屋で活動している80年代風のニューウェーブサウンドにさわやかな歌詞の4人組「バケラッタ」などが有名。

90年代後半に入って「ザ・シンセサイザーズ」(ケラの新バンド)、「スクーター」などを中心に復活したナゴムも見逃せない。

さらに90年代ニューウェーブ、アンダーグラウンドテクノのイベントとしては、dip-switch主宰の「フリーシーケンスナイト」、宇宙犬、ニポンジン、テクノシューターズ、電卓(DxExNxTxAxK)などが活動していた「エレクト・ミシマ」、ハゲ&パスタ(現ハイワット・エレクトリック)企画の「テクノビーム」(第二回にはSUPER GET GET TWO、テクマ、ハイビスカス、ポリシックスが参加)などがあり、レーベルは、パラペッツ、メテオールなどがいる「ガナゴナ流星堂」、OMY、まにきゅあ団、宇宙ヤングなどがいる「トルバドール・レコード」、スクーデリア・エレクトロのメンバーでもある寺田康彦が設立した「シンク・シンク・レコーズ」などがある。

なかなか表にはでてこないインディーズシーンだけど、こういうおもしろいものを閉じ込めておくのはもったいないのでもっともっと多くの人に聴いてほしい。 (文:ウエハラケンイチ)